1000号 労働判例 「NEXX事件」
              (東京地裁 平成24年2月27日 判決)
賃金の減額につき労働者の同意がなかったとされた事例
賃金の減額と労働者の同意

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、電子機器・システム開発および販売を業とする被告Y社を解雇されたX(原告)が、勤務態度や業務上のミスなどを理由に解雇(普通解雇)され、当該解雇が無効であるとして、復職は求めないがそれに代わる損害賠償の支払いとともに、在職中に賃金を20%減額されたことにつき、当該減額分の支払い、さらに欠勤控除が違法であったとしてその分の支払い等を求めた事件である。
 Xは、当初、Y社でアルバイトとして働いていたが、その後平成17年1月に正社員となった。業務は、製品のマネージメント、マーケティングの全般、企画、販売のサポートであった。給与は、月60万3500円であったが、給与条件は本人の勤務状況、成績等とY社の業績状況をみて年度ごとに調整を行うとされていた(「本件改訂条項」)。Y社は、Xに対して諸手当を含めて、月額60万円(社会保険料および源泉所得税を控除して手取額は48万8367円)を基準として支給していたが、平成18年6月分の給与を20%分減額して48万円とし(以下、「本件給与減額」)、以後、その額を基準として給与を支払うようになった。本件給与減額に先立って、Y社は、全従業員に対して、説明会を開き、Y社の売上げが振るわない現状にあることから業績変動時の給与支給水準を設けたい旨、説明した。その際、従業員が少ないこともあって、給与減額に反対する声が上がることはなかった。Xも、平成21年6月13日頃、Y社に対して、要求書により、従前の契約どおりに月額60万円の支払いを求めるまで、約3年にわたって20%分減額された減額された給与を受領していた。
 Xは、平成21年7月6日、Yから業務命令の無視、反抗の継続、職務遂行能力の欠如等を理由に普通解雇の通告を受けた。なお、本件解雇については、@欠勤・遅刻・早退等の届出、報告といった従業員としての基本的な事柄について日常的な業務要請。支持・命令を軽視する事態が常態化していた、A管理部長からの業務報告書の提出の要請や内容の充実の指示についても、到底、改善したとはいえない、B展示会でのパソコンのキーボードの準備を失念して製品のデモンストレーションが一部できなかったの初歩的なミスなど、C勤務中に幾度となく居眠りをして注意を受けた、等からして、裁判所も、本件解雇は、Xが主張するような、本件給与減額分の支払いを東京労働局の斡旋を申請したことに対して報復的になされた解雇ではなく、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法16条)には該当せず、有効であると判示している。ここでは、上記、「本件給与減額」にしぼって見ていくことにする。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のように判示している。すなわち、労働契約において、賃金は最も基本的な要素であるから、賃金額の引下げについて労使間で合意が成立したといえるためには、労働者が当該不利益変更を真意に基づき受け入れたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要である。上記の20%分の給与減額について、反対の声を上げることが困難な状況であり、激変緩和および代替的な措置がとられず、減給について具体的な説明が行われていなかったとして、Xが、給与減額について真意に基づき受け入れたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しないとされ、したがって、Xとの間で黙示の合意が成立していたとはいえないと結論づけ、給与の減額分につき、時効により消滅した分(平成18年6月分から平成19年5月分までの152万5440円分)を除いてXの支払い請求が認容した。
 本件では、就業規則が存在しないところでの従業員の給与減額の合意の存否が問題となっている。こうした合意は必ずしも明示のものでなくても黙示の合意で足りるが、判旨は、合意の存否につききわめて厳格な認定を行っているといえる。

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