1018号 「プロッズ事件」
       (東京地裁 平成24年12月27日 判決)
女性グラフィックデザイン従事者による割増賃金、付加金の請求等が認められた事例
タイムカードと労働時間算定の方法
  解 説
 〈事実の概要〉
 本件は、主として商業デザインの企画、製作、販売を業とするY会社(被告)に、平成15年4月に入社したX(原告、女性)が、@平成16年11月から18年8月にかけての時間外労働等に対する割増賃金1581万円余およびそれと同額の付加金、A一方的に減額された未払い賃金(平成18年6月から同8月まで給与を1万1000円減額した)および支払われるべき賞与、B男女差別、昇給差別等の不法行為に対する損害賠償等を求めた事件である。なお、Xがグラフィックデザイナーとして入社したかグラフィックデザイン・ディレクターとして入社したかについては当事者間に争いがあり、Xは、頚肩腕症候群・右手腱鞘炎で平成18年8月15日以降、休業している(上記疾病は、労働災害と認定されている)。
 Xの所定労働日数は、平成16年が239日、平成17年が237日、平成18年が241日であり、月平均所定労働時間は、平成16年が159・33時間、平成17年が158時間、平成18年が160・67時間であった。問題はそれ以外の労働時間数であるが、この点についてX・Yの主張は大きく食い違っている。まず、Xが、@タイムカードについて、「24:00」と手書きされているのは、実際に、翌朝5時ないし5時30分まで残業している日であり、上記の手書きは、Yの指示に従っていただけである、昼の食事休憩もほとんど取れない業務環境であり、取れたとしても業務からの解放はなかった、A入社に際して月給30万円を提示されて了承したが、あくまで試用期間中の給与としてであり、この30万円の中に残業50時間程度の手当相当額を含むことについて合意していない、と主張した。これに対して、Yは、@Xが会社にとどまっていた時間は他の従業員と比して突出して異常に長いものであったし、Xの上司たる乙山は、日頃からXに時間外労働を止めるように指示していた。また、実際にXは深夜まで会社に残っていても会社で眠っている姿を目撃されており、仕事をしていたわけではない。24時以降まで残業した場合に、「24:00」と手書きするように指示したことはなく、実際に退出した時間を手書きした社員もいる。A会社は、Xの入社の際に、給与18万円に残業50時間程度の手当相当額を加算した額として月給30万円を提示した等と主張した。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、労働時間について、使用者の指揮命令の下に置かれている時間であり、使用者には、労働者の労働時間を適正に把握する義務が課せられているから、使用者がタイムカードによって労働時間を記録・管理していた場合には、タイムカードに記録、管理された時刻を基準に出勤の有無および実労働時間を推定することが相当であるが、他により客観的かつ合理的な証拠が存在する場合には、当該証拠により出勤の有無および実労働時間を認定することが相当であるとしている。そして、@出勤時間については、タイムカードに直行と記載がある場合は、始業時刻である9時30分とみなし、その日の最初のデータ保存記録から2時間遡った時刻(Xの主張がそれよりも後の場合はその時刻)には出勤しているものとみなし、A退勤時間については、Xのパソコンのデータ保存記録およびメール送信時刻(Xの主張がそれよりも前の場合はその時刻)に退勤したとみなしている(なお、「24:00」の手書きを翌朝5時ないし5時30分まで勤務していた記録であると認めるに足りる的確な証拠はないとしている)。さらに、B休憩時間については、Y社における業務内容からすれば、労基法上義務づけられている休憩時間すら取得できないほど業務が過密であったとは認められないとして、労基法上義務づけられている程度の休憩時間は取っていたとした。このような認定方法で、結局、804万円余の時間外労働を認定し、それとほぼ同額の800万円の付加金を認定している。
 なお、残業50時間程度の手当相当額を加算した額として月給30万円を合意したとのYの主張は退けられ、月額30万円を割増賃金の算定の基礎とされている。また、平成18年6月から同8月まで給与を1万1000円減額したことについてXの同意もなく、また同意に代わる客観的かつ合理的な根拠もないとして無効とされ、平成16年11月度から平成17年5月度までは月額31万円、同年6月からか平成18年8月度までは月額36万円を割増賃金の算定の基礎としている。

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