1028号 「オリエンタルモーター事件」
       (東京高裁 平成25年11月21日 判決)
労働者の未払い残業代、付加金、損害賠償請求等の支払いが認められなかった事例
労働者の未払い残業代の成否
  解 説
〈事実の概要〉
 本件は、モーター等の製造・販売を目的とする会社Y(被告、控訴人)に雇用されていた労働者X(原告、被控訴人)が、退職した後で、@未払い残業代および労基法114条の付加金、AYにより欠勤控除されなかった額について、退職前後に清算したことにつき、不当利得の返還、B飲み会への参加や一気飲みを強要され自律神経失調を発症したとして使用者責任に基づく損害賠償請求等の支払いを求めていたものである(ここでは紙数の関係でAは省略)。
 Xは、平成22年4月1日にYに入社したが、新社員集合研修を受けた後、5月1日付けで大阪支社営業部営業課に配属になった。その後、高松事業所で生産実習を受け、夏期休暇をはさんで8月17日からまた大阪支社での実習を再開した。10月中旬から先輩社員とともに営業先に赴く営業実習を始め、12月には一人で営業先に赴くこともあった。上記の実習中、毎日、その日に学んだことや質問等を記載する日報を作成して、チューター役の上司に提出して、上司らがコメントを記載して返却していた。Xは、平成22年末までの間、販売目標その他の営業ノルマを課せられたことはない。
 Xは、正月休暇が明けた平成23年1月5日、所属長であるDに、長野県に住む父親が脳梗塞で倒れたので休暇を取得する旨連絡し、その後、Yに出社しなかった。連絡を取った上司には、残業代がつかない、飲み会が多い、堪能な中国語を生かす機会がない等述べ、結局、3月末日でYを退職する旨の退職願を提出して退職した。
 その後、Xは、上記の訴えを提起したが、1審(長野地判平成25・5・24)は、Xが作成していた日報について作成が義務づけられていたとした上で、なるべく当日中に提出するように指導がなされ、その作成にはXのチューターであったCも30分ないし1時間程度要することを認めていたこと、実習スケジュールの中に、午後5時30分から日報の作成を開始するという予定が組まれていたことからすると、Xは、始業前あるいは終業時間後に日報作成を行うことがしばしばあったとし、高松事業所および大阪支社における時間外労働を認定した。その際、ICカードの使用履歴をもって時間外労働を認定している。Yが控訴。
 〈判決の要旨〉
 控訴審では、ICカードは施設管理のためのものであり、その履歴は会社構内における滞留時間を示すものに過ぎないから、履歴上の滞留時間をもって直ちにXが時間外労働をしたと認めることはできず、ICカードの使用履歴記載の滞留時間にXが時間外労働をしていたか否かを検討する必要があるとし、次の検討を行っている。すなわち、まずXの、残業の内容として日報を作成していたとの主張については、日報は実習の経過を示すもので会社の業務に直接関係するものでないこと、提出期限もなかったこと等から、残業が必要であったということはできず、また、YがXに対して日報作成のために残業を命じたことを裏付ける証拠はないとした。また、Xは、時間外労働として翌日訪問する営業先の下調べをしていたと主張しているが、Xは実習中であって、一人で営業先に赴くこともなかったというのであるから、下調べをしていたとしても、これをもって労務の提供を義務づけられていたと評価することはできない、とした。さらに、着替えや朝礼、朝のラジオ体操への参加は任意であり、着替えや掃除が義務づけられていたことを認めるに足りる証拠はないとした。
 なお、Xが、飲み会への参加や一気飲みを強要されたことを認めるに足りる証拠はないとして、Xの請求をすべて否定し、原判決を取り消している。
 日報についても種々の内容のものがあり、高裁は、本件での日報は本来的な業務に属するものではないとの判断に立つものといえるが、時間外労働の立証について労働者にかなり厳しい責任を課す裁判例であるといえる。

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