1048号 労働判例 「ニヤクコーポレーション事件」
              (大分地裁 平成25年12月10日 判決)
有期の労働契約を反復更新してきた貨物自動車の運転手に対する更新拒否が不当とされた事例
有期契約の雇止めの適法性およびパートタイム法8条1項の意義
  解 説

 〈事実の概要〉
 本件は、石油製品等の保管、搬出入作業等を営むY社(被告)に期間のある労働契約を締結して雇用されていたXが更新を拒否され、それを不当として訴えていたものである。その中で 短時間労働者法(パート法)8条1項の差別取扱い禁止も大きな争点となり社会的にも関心を集めた事例である。
 Xは、平成16年10月15日、Yとの間で期間のある契約を締結していた期間社員であったが、18年4月1日以降は准社員となり、25年3月31日まで各1年の有期労働契約を更新してきた。Xが期間社員であったときの労働条件は、1日の所定労働時間・7時間、賃金基本日額・6800円であったが、准社員となった当初は、1日・7時間、基本日額・6600円で、平成20年4月1日以降は、1日・7時間、基本日額・6850円とされた。その後、1年の期間雇用が継続していた(平成24年度は、同年4月1日から平成25年3月31日まで)。
 平成24年7月1日、Y社は准社員就業規則、准社員賃金規程を改正し、契約期間を平成25年6月30日までとするとともに、1日の所定労働時間を8時間に統一し、勤務日数は年291日から正社員と同じ258日に、基本日額を7870円に変更した。しかし、Xは、この新たな雇用契約書に署名しなかった。
 X・Y社間で次のような紛争が生じていた。Xは、職務の内容(業務の内容および業務に伴う責任)が正社員と同一であるにもかかわらず、准社員(短時間労働者)であることを理由に処遇に差があるのはパート法8条1項の差別取扱い禁止に違反すると主張し、Y社にその是正を求めるとともに、パート法21条の紛争解決の援助、22条の調停申請、さらには労働審判の提起等を行った。労働審判では、パート法8条違反および不法行為に基づく過去3年分の賞与の差額相当分120万円の支払い等が命じられたため、Y社が異議を申し立てたため訴訟に移行することとなった。
 本件の争点は、@本件有期雇用契約が労働契約法19条1号の要件を満たすか(期間の定めのない労働契約の終了との同一性の有無)、あるいは同条2号の要件を満たすか(更新の合理的期待の有無)、A更新拒絶の相当性の有無、B労働契約の更新に基づく請求の成否、C平成24年7月1日に変更された就業規則のXへの適用、Dパート法8条1項違反の有無、Eパート法8条1項に基づく請求の成否、Fパート法8条1項に違反したことによる不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効、G准社員として3年間勤務した後に正社員として雇用するという約束の有無と多岐にわたるが、ここでは、DーFについて見ていくことにする(なお、ちなみに判旨は、@を認め、Aについては、更新拒絶に客観的合理性・社会的相当性はないとした。Bについては、Y社は、平成25年3月31日までと同一の労働条件でXによる申込みを承諾したものとみなされるから基本給の支払い請求は認められるが、更新拒絶がされて実際に就労していない期間中の通勤手当、トレーラー手当、無事故表彰金、時間外手当、査定がなされていないため賞与の請求権はないとされた。Cの就業規則の変更は合理性があるとされ、Xへの適用も肯定されている。さらに、Gでいう約束は否定されている)。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、Cの就業規則の変更は合理性があるとされ、変更後の就業規則がXに適用されるため、上記のDパート法8条1項違反の有無は、平成24年6月30日までについて検討されるべきであるとして、Xは、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」であると認めている。そして正社員との間で年間賞与で40万円を超える差を設けるについて合理的な理由があるとは認められず、このような差別的取扱いは短時間労働者であることを理由に行われていると認められるとした。また、週休日についても退職金についても同様の判断をしているが、これらは、パート法8条1項違反すると結論づけている。その一方で、パート法8条1項は差別的取扱いの禁止を定めるものであり、同項に基づいて、「正規労働者と同一の待遇を受ける労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めることはできない」としている。これに対して、パート法8条1項に違反する差別的取扱いは不法行為を構成するものと認められ、XはY社に対して、損害賠償を請求することができ、その時効は民法724条により3年と解すべきであるとしている。
 学説の基本的主張とほぼ同一の説示であるが(荒木尚志『労働法(第2版)』485頁)、初めてパート法8条1項の意義を取り上げた事例として注目されるものである。

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