1062号 「L館事件」
       (最高裁第1小法廷 平成27年2月26日 判決)
管理職2名が行ったセクハラを理由とする懲戒処分および降格処分が有効とされた事例

セクハラを理由とする懲戒処分および降格処分の有効性
  解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、Y社(L館)の男性従業員であったX1およびX2(以下、両者を合わせてXら)が、それぞれY社の女性従業員に対して性的な発言等のセクハラを行ったこと理由として出勤停止の懲戒処分(出勤停止処分)を受け、これを受けたことを理由に資格等級を降格する処分を受けたことに対して、上記の懲戒処分(出勤停止処分)は、懲戒事由の事実を欠き、または懲戒権を濫用したものとして無効であり、したがって、降格処分も無効であると主張して争った事案である。
 X1は、Y社の営業部サービスチームのマネージャーの職位にあり、X2は、営業部課長代理の職位にあって、Y社の資格等級制度上、M0(課長代理)に位置に格付けされていた。Y社の営業部事務室内では、他にD社から派遣されていた売上管理担当の女性従業員B、およびD社の従業員でY社から請け負っている業務に従事していた従業員Cを含む20数名が勤務していた。
 平成23年当時、Y社の従業員の過半数は女性であり、L館の来館者も約6割が女性であった。Y社は、職場におけるセクハラ防止を重要課題として位置づけ、研修への参加を全従業員に義務づけていた。また、Y社のセクハラ禁止文書には、禁止行為として、@性的な冗談、からかい、質問、A他人に不快感を与える性的言動、B身体への不必要な接触、C性的な言動により社員等の就業意欲を低下させ、能力発揮を阻害する行為等が列挙され、懲戒処分事由たる職場規律違反の具体例として位置付けられていた。
 平成22年11月頃から、X1は、Bに対して、自らの不貞相手に関する事柄や性欲等についての発言を繰り返すなどし、X2も、Bに対して、下品な言葉で侮辱し困惑させるような発言を繰り返していた。
 Y社は、Bらからセクハラを受けた旨の申告を受け、Xらから事情聴取を行った上で、X1およびX2に対して、出勤停止の懲戒処分を行い、さらに、Xらが懲戒処分を受けたことを理由に資格等級を1等級降格することを決定した。これによりXらは、給与および賞与の減額等を受けた。
 1審は、本件懲戒処分は、客観的合理的であり社会通念上相当であると認められ、有効であるとし、降格についても人事権の行使として有効なものというべきであるとしたが、2審(原審)は、前者について重きに失し社会通念上相当であるとは認められないとし、後者の降格処分についても、懲戒処分が無効である以上は本件降格は理由があるとして無効であるとし、1審判決を取り消していた。Y社が上告。
 〈判決の要旨〉
 最高裁は、2審判決の判断は是認できないとして、次のように判断している。従業員Bらに対するXらの発言は、女性従業員の就業意欲を低下させ、能力発揮の阻害を招来するものであること、Xらは管理職として、セクハラ防止のため部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず、職場内で多数回のセクハラ行為を繰り返していたものであった、その職責や立場に照らしても「著しく不適切なもの」であり、従業員Bは、Xらの行為が一因となってL館での勤務を辞めることを余儀なくされていることを考慮し、Xらのセクハラ行為を極めて不適切でY社の企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過しがたいとした。以上から、Y社が行った出勤停止の懲戒処分を、懲戒処分として重きに失し社会通念上相当性を欠くということはできないとした。また、Y社の資格等級制度が、降格事由の一つとして懲戒処分を受けたことを規定しており、Xらについては降格事由に該当する事情があり、その降格がXらに相応の給与上の不利益を伴うものであったことを考慮しても、その判断は有効であると結論づけた。
 本件でのXらのセクハラ行為というのも何かBらに猥褻な行為をしたものではなく、単なる発言であり、これに出勤停止の懲戒処分というのは重すぎるというのが2審の判断であったが、最高裁は、上記のようにXらのセクハラ行為をその職責や立場に照らしても「著しく不適切なもの」としたのであり、妥当なものといえる。

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