1076号 労働判例 「シャノアール事件」
(東京地裁 平成27年7月31日 判決)
途中に中断があったが約8年半にわたって更新を繰り返したアルバイトに対する雇止めが有効とされた事例
約8年半更新を繰り返したアルバイトに対する雇止めの有効性
〈事実の概要〉
本件は、Y社(被告)において、途中大学を卒業後中断があったが、合計で約8年半にわたって更新を繰り返したアルバイトXに対する雇止めの有効性が争われた事例である。XはYでの地位確認とともに、Xが加入した組合とYとの団体交渉等でのYの発言(定期的に労働者が入れ替わり若返ることを社内的に「鮮度」と呼んでいるとの人事部長の発言)が不法行為に該当するものとして慰謝料の請求も行っている。
Yは、コーヒー・軽食等の店舗内提供・テイクアウト販売を行う店舗の直接経営を行っている会社であり、各店舗の正社員は、研修中の新入社員を除き、通常店長1名のみで、他の店舗従業員はほぼすべて契約社員あるいはアルバイトである。各店舗のアルバイトは概ね20名から30名程度である。
Xは、大学在学中に3年7ヵ月、大学を卒業して他社に就職して中断したが、大学院在学中に4年11ヵ月、期間3ヵ月の期間の定めのある労働契約を通算して33回更新を繰り返してきたが、平成25年6月15日にYから雇止めされた(本件雇止め)。Xは、Yの経営するF店で、店長がシフトに入らない時間帯にアルバイトの主導的役割を担う「時間帯責任者」として業務を行っていたが、Xの出勤状況は、平成24年1月から平成25年までの間、月3日ないし7日程度であった(Yは、アルバイトについて最低で週2日程度、1回当たり4時間以上の勤務きぼうしゃを採用してきていた)。なお、Yでは、平成24年3月からアルバイトの契約期間の上限を4年などとする更新制限の措置が導入されている。
〈判決の要旨〉
裁判所は、本件雇止めが有効か否かを、労働契約法19条の定める要件に該当するかどうかで判断している。まず、第1号該当性(本件の有期契約を期間の定めのない契約と同視できるかどうか)について、契約更新手続きは店長がアルバイトと個別に面談を行い、更新の可否について判断した上で、アルバイトに契約書を交付し、その作成を指示し契約更新を行っていることが認められるとして、アルバイトの有期労働契約の更新手続きが形骸化した事実はないとして、第1号該当性を否定している。
次いで、第2号該当性について判断しているが、第2号該当性の際に問題となる更新の期待の有無とその期待の保護性を、@更新期間、更新回数、A従事してきた業務、B契約の更新手続き、C契約更新の合意、D契約更新の実態についてみて、Xについては、雇用の期待は単なる主観的な期待にとどまり、その期待に合理的な理由があるとはいえないとしている(とくにD店長がXの勤務頻度を問題とし、雇止めを検討されたことも不合理ではないとし、Xは、D店長から勤務頻度の少なさを理由として雇止めされてもおかしくない立場にあったと客観的評価されると述べる)。
労働契約法19条1号・2号の該当性がない場合、雇止め法理(解雇権濫用法理の類推適用、客観的合理的理由、社会的相当事由がなければ雇止めは不可とされる)の適用はなく、使用者が、期間雇用契約を期間満了を理由に終了させても違法とはならないが、本件で裁判所は、さらに雇止めの合理性および相当性を検討し、本件で不更新条項が導入されたこともやむを得ない理由があり、かつ、X の勤務頻度の低さにも問題があったとして、雇止めは客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当であるとしている。なお、人事部長の発言は不法行為に該当するものとまでいえないとして、Xの慰謝料請求を棄却している。
学生アルバイトの場合、通常では卒業で終了し、雇止めが問題になるケースは少ないと思われるが、例外的には本件のようにかなり長期にわたって反復更新されるな場合もあり、事例として興味深い。
BACK |