1118号 労働判例 「M社事件」
(東京地裁 平成29年3月23日 判決)
売店業務に従事する正社員と契約社員について、
本給、賞与および各種手当等の相違は労働契約法20条に違反しないが、
早出残業手当の相違は20条に違反するとされた事例
正社員と契約社員との間の格差と労働契約法20条
解 説
〈事実の概要〉
本件は、T社の100%子会社として、T社駅構内における新聞、たばこ、飲食料品、雑貨等の物品販売等の事業を行う会社(被告・Y)で、契約社員として期間の定めのある契約を締結し、T社構内で販売業務に従事していたXら(原告)が、期間の定めのない労働契約を締結しているYの正社員と同一内容の業務に従事しているにもかかわらず、賃金等の労働条件が相違するのは労働契約法20条に違反し、かつ公序良俗に反するとして、不法行為等に基づき差額賃金相当額等を請求した事案である。
Yには、月給制の正社員以外に、契約社員A(月給制の嘱託社員)、契約社員B(パートタイマー)がいたが、正社員は、職務の限定がなく、期間の定めのない労働契約を締結している社員であり、おおむね18歳から22歳までの間に採用されていた。他方、契約社員A、契約社員Bは、職務限定契約であり、Yとの間で期間の定めのある契約を締結し、駅売店における販売業務、それに付随する業務等にのみ従事していた。なお、契約社員Bとして新規に採用される者の平均年齢は47歳程度であり、契約社員Aは、関連会社再編の際に関連会社から受け入れた月給制の嘱託社員か、登用制度により契約社員Bから契約社員Aに登用された者のいずれかであり、契約社員Bのキャリアアップの雇用形態であった。
Xらの賃金は時給であったが、正社員の月例賃金は、基準賃金と基準外賃金からなり、昇給、昇職制度がある。また正社員には毎年6月、12月の2回、賞与が支給された。なお、正社員は、業務の都合により配転、職種転換が命じられることがあり、正当な理由なくそれを拒むことはできない。退職金制度もある。これに対して、契約社員Bの場合、賃金は時給制の本給および諸手当からなり、諸手当は早出残業手当、休日労働手当、深夜労働手当、通勤手当、その他の手当があるが、正社員に支給される住宅手当、家族手当の支給はない。また賞与は、正社員と同様に毎年6月、12月の2回、支給されるが、その金額は各12万円の定額であり、3月には特別手当が、経営状況により支給されることがある。退職金制度はない。契約社員Aは、月給制であり、月例賃金額は16万5000円、賞与も年2回支給されるが年額は59万4000円である。退職金制度はない。
争点は、@労働契約法20条違反の成否、A公序良俗違反、BXらの損害、である。
〈判決の要旨〉
@について、裁判所は、次のように述べる。有期契約労働者の労働条件が、無期契約労働者の労働条件と相違するというだけで、当然に労働契約法20条の規定が適用されるということにはならず、上記の労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることが必要としたうえで、契約社員Bと正社員との間の上記の労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることは明らかであるとして、労働契約法20条の規定の適用を肯定する。その上で、Yの正社員と契約社員Bとの間には、従事する業務の内容・その業務に伴う責任の程度、配置の変更の範囲には大きな相違があるとして、正社員と契約社員Bの本給および資格手当の相違は不合理とは認められないとする。また、住宅手当、賞与、退職金についても同様の判断をしている。
これに対して、早出残業手当の正社員と契約社員Bの相違については、労基法37条の趣旨に鑑みても不合理なものであるとして、公序良俗違反とまでいえないとしても、早出残業手当における不合理な相違が不法行為を構成することは認める。
契約社員と比較されるのが、販売業務に従事する少数の正社員なのか、多数を占める正社員一般なのかは重要な論点となるが、本判決は後者の立場を取っている。妥当である。
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