1136号 労働判例 「シリコンパワ−ジャパン事件」
(東京地裁 平成29年7月18日 判決)
20名程度の規模の企業において、メ−ルのCCに上司を入れる旨の指示に
繰り返し反したことを理由とする普通解雇が有効とされた事例
規模の小さい企業で上司の指示に繰り返し反したことと普通解雇
解 説
〈事実の概要〉
本件は、コンピュ−タ−およびその周辺機器の販売・輸出入を業とする会社Y(被告)に平成26年9月頃採用されたX(原告、昭和57年生れ)が、メ−ルのCCに上司を入れる旨の指示違反等を理由に解雇され、同解雇は権利濫用により無効であると主張して、労働契約上の地位確認、バックペイ等を求めたものである。
なお、平成26年当時のYの従業員数は20名弱であった。また、Xは、平成27年1月からYマ−ケティング部門所属となり、同年2月には、Dが採用され、その後、部長としてYの営業部門およびマ−ケティング部門を統括するものとされた。同年5月以降、Yのマ−ケティング部門所属の従業員はXのみであった。
C(Yの代表取締役)は、平成27年3月4日、「営業各位、これからメ−ルを出す時は、社内、社外を問わず、必ずDさんをCC(電子メ−ルの宛先のカ−ボンコピ−欄、以下「CC」)に入れてください。よろしくお願いします。」と記載した電子メ−ルを送信した。
ところで、Xは、同年7月頃から、業務に関連する電子メ−ルを送信する際に、CCにDのメ−ルアドレスを入れないことがあった。Dは、Cに対して、同年11月5日、次の内容の電子メ−ルを送信した。@本社から翻訳の依頼があり、Dはその業務を開始していたが、Xも本社に回答しているようである。Xが意図的にCCにDのメ−ルアドレスを入れなかったので、知る術がない。Xが対応しているならば、Dが開始した業務が無駄になる。AXがDに電子メ−ルを入れないなどの姿勢が根本的に駄目である。再度Xに対して指示をしてほしい。BXの今後の電子メ−ルに係る規則の遵守状況が悪い場合には、即時、Xにはマ−ケティングから抜けてもらおうと考えている。C賞与支給時にXに説明するとのことであったが、それまで放置できない。D規則に従えない人は将来的に必要ない。 これに対して、Cは、Xに対して、同年11月9日、電子メ−ルのCCにDのメ−ルアドレスを入れるように指示した。ところが、Xは、同年11月10日、業務に関連する電子メ−ルを送信した際、CCにDのメ−ルアドレスを入れなかった。Cは、Xに対して、同年11月11日午前11時に「X殿、Dさんを必ず入れるように。これは命令です。C」と記載した電子メ−ルを送信した。その後、Xは、同日午後5時前までの間、合計5回、業務に関連する電子メ−ルを送信したが、そのいずれのCCにもDのメ−ルアドレスを入れなかった。Cは、Xに対して、同日午後7時42分頃、「Xクン、私のメ−ルが無視されたようです。時間の無駄なので、結論を出そう。すべてのメ−ルにDさんをCCに入れる・・・」などと記載した電子メ−ルを送信した。
同年11月30日、YはXを解雇。解雇予告手当として、33万5000円が支払われた。
〈判決の要旨〉
裁判所は、次のように判示する。Xは、上記のように、Yの代表取締役であるCからすべてのメ−ルのCCに必ずDのメ−ルアドレスを入れるように明確に命じられた後も、これに反し、あえて同じ行為を繰り返している。そして、そのことにより、Dの業務遂行に不利益が生じたことが認められる。CがXに対してした、メ−ルのCCに必ずDのメ−ルアドレスを入れるようにとの指示は、上司であるDが、部下であるXの担当する業務の内容や進捗状況等を、Xの主観的な判断による取捨選択を待たずに、早期かつ全般的に把握するという目的において合理的なもので、Xに大した労務負担を生じさせるものでないことに照らせば、Yの代表取締役社長の従業員に対する指示として不合理なものとは認められず、従業員に遵守させる必要性のある合理的な指示である。したがって、Yの従業員であるXとしては、特段の正当な事由がない限り、この業務上の指示に従う必要がある。Xが、本件解雇当時33歳という分別ある年齢であったことを考慮すると、Xに対する指導や教育等がXを解雇するに不十分であったとは認められない。そのほか、Yが代表取締役社長を含めて従業員20名弱という小規模の会社であったことに照らせば、YがXに対して解雇以外の手段をとつことは困難であったと認められる、と。
従業員20名弱という小規模の会社で、代表取締の合理的でさほどの負担を生じない指示が、これといった特段の理由もなく無視されるということはやはり許容できないので、解雇は、やや性急な感じもするが、結論的には正当といというべきであろう。
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