1138号 「シュプリンガ−・ジャパン事件」
       (東京地裁 平成29年7月3日 判決)
問題行動があったとして産前産後休暇・育児休業取得後に解雇された者の解雇が無効とされた事例
産前産後休暇・育児休業取得後の解雇の有効性
  解 説
 〈事実の概要〉
 X(原告)は、Y(被告、英文の学術専門誌の出版・販売を行う会社)の従業員で、制作部のJournal Editional Office(以下、JEOチ−ム)に所属し、学術論文等の査読システ ムの技術的サポ−トを提供する業務に従事していた。Xは、平成26年4月25日、Yに産前産後休暇・育児休業の取得を申請し、同年8月から産前産後休暇に入り、度年9月2日に第二子を出産した後、引き続き育児休業を取得した(「第2回休業」という)。平成27年3月、XがYに第2回休業後の職場復帰の時期等について調整を申し入れたところ、Yの担当者らは、JEOチ−ムの業務は、Xを除いた7人で賄えており、従前の部署に復 帰するのは難しく、復帰を希望するのであれば、インドの子会社に転籍するか、(収入が大幅に下がる総務部のコンシエルジュ職に移るしかないなどと説明し、Xに退職を勧奨し、同年4月分以降の給与は支払われたものの、その就労を認めない状態が続いた。これに対して、Xは、Yのした退職勧奨や自宅待機の措置は均等法や育休法の禁じる出産・育児休業を理由とする不利益取扱いに当たるとして、東京労働局雇用均等室の援助を求め、育休法52条の5による調停の申請を行い、原職や原職に相当する職に復帰させることを求めた。紛争調整委員会は、Xの申立てに沿った調停案受諾勧告書を提示したが、Yがその受諾を拒否したため、調停は打ち切られた。
 Yは、Xに対して、平成27年11月27日付けの書面により、同月30日限り解雇する旨の通知を行った。解雇理由として、Y就業規則の該当条項を挙げた。具体的には、職務命令違反、勤務態度、協調性のなさが指摘されている(裁判所も、Xが自身の処遇・待遇に不満を持って、GやC部長ら上司に執拗に対応を求め、自身の決めた方針にこだわり、上司の求めにも容易に従わない、協力的な態度で対応せず、時に感情的になって極端な言動を採ったり、皮肉・あてこすりに類する言動、上司に対するものとしては非礼ともいえる言動を採ったりしており、その結果、上司らはXの対応に時間を取られることを大きな負担と感じ、Cに関しては他部門へ異動せざるを得なかったもの、としてXの「問題行動」に注意・指導を行ってきたことを指摘している)。
 本件は、上記の解雇を受けたXが、産前産後休暇・育児休業取得後の解雇は均等法9条3項、育児・介護休業法10条に違反して無効である、また労働契約法16条からも無効であるとして、地位確認、解雇後の賃金の支払い、さらに損害賠償を求めていたものである。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のような判断枠組みを提示している。すなわち、事業主において外形上、妊娠等以外の解雇事由を主張しているが、@それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを認識しており、あるいはこれを当然に認識すべき場合において、A妊娠等と近接して解雇が行われたときは、均等法9条3項、育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから、このような解雇は、これらの各規定に違反した違法なものと解するのがそうとうである、と。
 結論としては、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないので労働契約法16条としながら、上記枠組みにそって均等法9条3項、育休法10条に違反し、少なくともその趣旨に反したもので無効としている。さらに、本件解雇が行われた経過に照らして、Xがその過程で大きな精神的苦痛を被ったことがみてとれるとして、50万円の慰謝料(併せて弁護士費用5万円)を認定している。
 判決中にも指摘されているが、「問題社員」であっても、復職を受け入れた上で、その後の業務の遂行状況や勤務態度を確認し、不良な点があれば注意・指導、場合によっては解雇以外の処分を行うなどするというハ−ドルを超える必要があるということであろう。

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