1174号 労働判例 「A市事件」
              (最高裁第三小法廷 平成30年11月6日 判決)
普通地方公務員(単純労務職員)がコンビニで行ったセクハラ行為を理由になされた
懲戒処分(停職処分6月)の取消請求につき、これを違法とした1審および控訴審を覆して
それを適法とした最高裁の事例
地方公務員の非違行為と懲戒処分の適法性

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、普通地方公務員(単純労務職員)がコンビニで行ったセクハラ行為を理由になされた懲戒処分(停職処分6月)の取消請求に関わる事例である。X(1審原告、被控訴人、被上告人)は、平成3年にA市(被告、控訴人、上告人)に採用された一般職に属する男性の地方公務員(単純労務職員)であるが、平成22年4月から自動車運転士として主に一般廃棄物の収集、運搬に従事していた。問題は、Xが勤務時間中にA市の市章のついた制服(作業員)を着たまま立ち寄ったコンビニで女性従業員に不適切なセクハラ行為をしたことにつき、その後、新聞でその事実およびA市が店側の意向等を理由にXの処分を見送っている旨の記事が報道され、これを受けてA市は記者会見を開き、今後事情聴取をして当該職員に対する処分を検討する旨の方針を表明し、平成26年11月にXに対して地方公務員法29条1項1号、3号に基づき停職6月の懲戒処分を行った。この処分に対して、Xがその取消を求めたのが本件である。
 1審神戸地裁は、Xの請求を認容し、Xに対してした停職6か月の懲戒処分を取り消す旨の判決を行った。理由としては、この停職6か月の懲戒処分が期間の選択の点で、Xの受ける不利益が極めて大きく(その間、いかなる給与も支給されない)、その生活に対する影響が大きい等が指摘された。控訴審でも、ほぼ同様な観点から、本件の停職6か月の処分は社会観念上著しく妥当性を欠くとしてA市の控訴は棄却された。これに対して、A市が上告。
 〈判決の要旨〉
 最高裁は、A市の上告を認容し、原判決を破棄し、第1審判決を取り消した。最高裁が次の点を指摘している。公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており、その判断は、それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、濫用したと認められる場合に違法となる。原審は、@本件従業員がXと顔見知りであり、Xから手や腕を絡められるという身体的接触について渋々ながらも同意していたこと、A本件従業員および本件店舗のオ−ナ−がXの処罰を望まず、そのこともあってXが警察の捜査の対象にもされていないこと、BXが常習としてそのような行為をしていたとまで認められないこと等を停職6か月の処分は社会観念上著しく妥当性を欠くことを基礎づける事情として考慮している。しかし、@Xと本件従業員はコンビニの客と店員の関係にすぎず、本件従業員が終始笑顔で行動し、Xによる身体的接触に抵抗を示さなかったろしても、それは客とのトラブルを避けるためのもので、これをXに有利に評価することは相当ではない、A本件従業員および本件店舗のオ−ナ−がXの処罰を望まないとしても、それは事情聴取の負担や本件店舗の営業への悪影響を懸念したものとも解される、BXのセクハラとされる行為が勤務時間中に制服を着用してされたものであること、複数の新聞で報道され、A市において記者会見も行われたことからすると、Xの行為によりA市の公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれたといべきであり、社会に与えた影響は決して小さなものということはできない、と。
 こうして2つを並べて比較してみると、最高裁の判断の方が妥当性は高いと思われる。海遊館事件(最1小判平成27・2・26労判1109号5頁)でも、最高裁は、同様の観点からの判断を行っている。

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