1192号 労働判例 「高知県公立大学法人事件」
              (高知地方裁判所 令和2年3月17日 判決)
特定のプロジェクトのために有期で雇用されていた職員の雇止めが無効とされ、
5年を超えていたことから無期雇用への転換が認められた事例
特定のプロジェクトの無期雇用への転換

 解 説
 〈事実の概要〉

 本件は、特定のプロジェクトのために有期で雇用されていた職員の雇止めが無効とされ、さらに、その期間雇用が5年を超えていたことから期間のない労働契約への転換の意思表示があったとして無期雇用への転換が認められた(労契法18条1項)事例であるが、特定のプロジェクト(7年)のために有期で雇用されていた職員につき無期雇用への転換を認めることが適切・妥当といえるかどうか疑問もあり得るところである。
 X(原告、昭和52年生まれ)は、システムエンジニアであり、Y(被告、高知県公立大学法人)との間で、平成25年4月1日または11月1日(契約成立の時期については争いがある)期間の定めのある労働契約を締結し、Yにおいて技術職員として遠隔テレビ会議システム等の構築と運用に関する業務に従事してきた。XとYは、本件労働契約を3回にわたり更新してきたが、契約更新の有無については、第1回、第2回の更新時には、「更新する場合があるが、従事している業務の進捗状況や予算措置により判断する」、第3回(平成29年)の更新時には「更新しない」とされていた。なお、Yにおいては、「特定プロジェクト職員規程」が平成25年4月1日から施行され、それによると特定プロジェクト職員の雇用期間は、事業年度の範囲内で定めるものとし、雇用の通算期間は当該特定プロジェクに係る終期を限度とし、Y職員定年規程を適用しないと定められていた。 ところで、Yは、平成30年3月31日、本件労働契約を更新しなかった。これに対して、Xは、雇止めは労働契約法19条に違反する無効なものである旨主張し、地位確認等の訴えを提起した。なお、平成29年4月1日時点のY大学における事務職員の平均年収は447万円であり、同時点におけるXの年収は571万円は、他の職員に比して突出して高かった(Xの同世代・38歳から41歳の事務局職員の平均年収は339万円)。
 本件の争点は、@労働契約法19条に関するもので、Xの更新期待が合理的といえるか等であり、A本件労働契約が労働契約法18条1項により無期労働契約に転換したといえるか否かである。
 〈判決の要旨〉
 まず裁判所は、争点の@について、次のように述べる。本件労働契約は、Xが従事していた本プロジェクトは、更新が予定されていたものの、最長で上記プロジェクト終了時までを契約期間として予定していた有期労働契約であるというべきものである等と述べて、労働契約法19条1号の適用は否定するものの、同条2号の「合理的期待」を肯定し、XY間の労働契約は労働契約法19条2号に該当するとしている。他方、本件雇止めに相当性があるか否か(同条柱書き)について、人員削減の必要性、解雇回避努力義務、人選の合理性、手続きの相当性という、いわゆる人員整理の4基準に当てはめて検討しているが、6年間の本プロジェクトの存続を前提としていた本件労働契約が終了する1年前に、本件労働契約をあえて雇止めしなければならない客観的理由や社会通念上の相当性が生じたとはいえないとしている。 
 問題は、本件労働契約が労働契約法18条1項により無期労働契約に転換したといえるか否かである。この点、裁判所は、Xが、平成30年4月1日から平成31年3月31日までの間に、Yに対して、無期労働契約の締結を明示して申し込んだ事実は認められないとしながら、Xが本件訴訟を提起し、口頭弁論終決時まで、一貫して、Yに対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を請求していること等から、XがYに対して労働契約法18条1項に基づく無期労働契約締結の申込みの意思表示を行ったと認めるのが相当であるとしている。
 Y大学の方も平成30年3月に本件労働契約をしない等拙劣な対応をしていたように思われるが、他方、Xも明確には無期労働契約締結の申込みの意思表示を行ってはいない。この点を捉えて裁判所も、無期転換を認めないことも可能であったのではないかと思われるが、いずれにしても、本件のような5年を超える長期のプロジェクトの場合、結果的に5年を超える更新が行われ、無期労働契約への転換が問題となる。これをどのように考えるかが問われる事例である。

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