1201号 労働判例 「名古屋自動車学校事件」
(名古屋地方裁判所 令和2年10月28日 判決)
自動車の教習業務等に従事したいた者Xら2名(原告)が、定年後再雇用され、
正社員と基本給、賞与、皆精勤手当、敢闘賞等で格差をつけられたのは
労働契約法20条に違反するとして訴えていた事例
定年後の再雇用と労働契約法20条
解 説
〈事実の概要〉
本件は、自動車の教習業務等に従事したいた者Xら2名(原告)が、定年後再雇用され、正社員と基本給、賞与、皆精勤手当、敢闘賞等で格差をつけられたのは労働契約法20条に違反するとして訴えていたものである。Y(被告)は、自動車学校の経営等を行う株式会社であり、XらはYの正社員として自動車学校に来た者に自動車教習指導員の業務を行い、定年退職後、期間1年(更新あり)の有期雇用契約を締結し嘱託職員として引き続き同じ業務を行っていた。定年の前後で、職務内容および変更範囲に変更はなかった。
定年前と比較して、Xらの基本給、賞与(嘱託職員一時金)、皆精勤手当、敢闘賞は減額して支給され、定年前に支給されていた家族手当は支給されなかった。本件は、これらの労働条件の相違が労働契約法20条に違反するとして、差額賃金あるいは損害賠償等を求めていたものである。
〈判決の要旨〉
裁判所は、次のように判示する。
1 まず、労働契約法20条の趣旨について次のように述べる。同条は、有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより、無期契約労働者の労働条件と相違する場合に、労働者の@職務の内容、A変更範囲、Bその他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨定めている。そして労働者の賃金に関する労働条件は、労働者の職務の内容および変更範囲により一義的に定まるものではなく、使用者は、雇用および人事に関する経営判断の観点から、様々な事情を考慮して労働者の賃金に関する労働条件を検討することができる。またこの点は、基本的には、団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きい。
2 Xらの正職員定年退職時と嘱託職員時では、その職務の内容、変更範囲には相違がなかったのであり、本件において、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断に当たっては、もっぱら「その他の事情」としてXらがYを定年退職した後に有期労働契約により再雇用された嘱託職員である点を考慮することになる。
3 @基本給について次のように判示されている。Xらの正職員定年退職時の賃金は、賃金センサス上の平均賃金を下回る水準であった中で、Xらの嘱託職員時基本給は、それが労働契約に基づく労働の対償の中核であるにもかかわらず、正職員定年退職時の基本給を大きく下回るものとされており、そのためXらに比べて職務上の経験に劣り、将来の増額に備えて賃金が抑制される傾向にある若年正職員の基本給をも下回るばかりか、賃金の総額が正職員定年退職時の労働条件を適用した場合の60%をやや上回るかそれ以下にとどまる帰結をもたらしている。このような帰結は労使自治を反映したものでもなく、Xらが退職金を受給しており、要件を満たせば高年齢雇用継続基本給付金・老齢厚生年金(比例報酬部分)を受給できるといった事情を考慮しても労働契約法20条にいう不合理と認められる、と。A皆精勤手当および敢闘賞(精励手当)については、欠勤なく出勤すること、多くの指導業務に就くことを奨励するという趣旨は、正職員と嘱託職員で相違はなく、嘱託職員時に減額して支給するというのは労働契約法20条にいう不合理に当たる。B賞与(嘱託職員一時金)についても、Xらの基本給を正職員定年退職時の60%の金額であるとして、各季の正職員の賞与の調整率を乗じた結果を下回る限度で、労働契約法20条にいう不合理と認められる、と。
C家族手当については、正職員の場合、嘱託職員とは異なり、幅広い世代の者が存在しており、これの者に家族を扶養するための生活費の補助は相応の理由がある。他方、嘱託職員は定年退職した者であり、老齢厚生年金の支給を受けられるのであり、これらの事情を考慮すると、嘱託職員に家族手当を支給しないことは労働契約法20条にいう不合理と認められない、と。
定年退職者であるからといって、正社員との労働条件格差の相当性はやはり維持されるのであり、本件は、その意味で定年退職者の正社員との労働条件格差の不合理性判断に1事例を加えるものである。
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