1204号 労働判例 「インタアクト事件」
(東京地方裁判所 令和元年9月27日 判決)
業務引継ぎの懈怠等を理由とする退職金不支給について、
これまでの勤労の功を抹消するほどの著しい背信行為とはいえないとして
退職金支給が認められた事例
退職金不支給の適法性
解 説
〈事実の概要〉
原告Xは、平成22年4月、コンピュ−タによる情報提供サ−ビス、ソフトウエアの企画販売等を業とするY社(インタアクト、被告)に正社員として入社し、Yの総務部主任として、社内設備、労務管理業務を担うとともに、人事管理部、社内開発企画部等に所属い、採用業務、サ−ババックアップ管理業務等に従事し、これらの業務を行う一部社員の指導を行う業務も行っていた。
平成28年11月10日、Xは、代理人を通じて、退職通知書の到達後1ヵ月を経過する日をもって退職する旨、および11月10日から退職日までの間は有給休暇を取得する旨等が記載された内容証明郵便を Yに送付し、結局、退職日を同28年12月9日とする退職者確認表をYに送付し、Yを自己都合により退職した。なお、Yの賞与管理規程上、賞与は、支給日に在職している者に対して支払われるものとされ、当期賞与は、4月1日から9月30日の支給対象期間における業務の貢献度合いを勘案して、12月上旬を支給時期として支給されることになっていた。平成28年度冬期の賞与の支給日は12月13日であったが、Xは、冬期の賞与の支給日に在籍していなかったため、支給されなかった。
Yの退職金規程上、退職金は、勤続年数が3年以上の従業員が退職する場合に支給されることになっていたが、退職金額は、退職時の基本給に、勤続年数および退職事由の区分に基づいて決定される支給率を乗じて算出され、退職後3ヵ月以内に一括で支払われることになっていた。また、Yの就業規則には、懲戒解雇事由に相当する背信行為を行った者には退職金の全額を支給しないことを内容とする退職金不支給条項がある。Yは、Xに対して、業務引継ぎの懈怠等を理由に退職金を支給しなかった(なお、ここでは、一々挙げないが、Yは、Xの背信行為として20項目にわたる行為を主張しているが、その多くは、退職時の業務の引継ぎの懈怠に関するものである)。
本件は、Xが、@平成28年度冬期の賞与の支給、およびA退職金規程に基づく退職金の支給を求めて提訴していたものである。裁判所は、@についてはXの請求を認めなかったが、Aについては、その請求を認容している。
〈判決の要旨〉
1 賞与 Xは、「支給日に在職している者」ではなかった。また、賞与の支給日は、必ずしも12月9日以前とされていたわけではなく、Yが、Xを支給日に在職社員として取り扱わないことが権利濫用に該当することはない。この点は、従来の、賞与の支給日在籍制度を適法とする判例を踏襲するものである(大和銀行事件、最1小判昭57年19月7日判例時報1061号118頁等)。
2 退職金 退職金が賃金の後払い的性格を有しており、労基法上の賃金に該当することからすれば、退職金の不支給は、労働者の勤労の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しい背信行為があった場合に限られると解すべきである。そして、Yが本件不振行為として主張するものの多くは、そもそも懲戒解雇事由に該当しないものである上、仮に懲戒解雇事由に該当しうるものが存在するとしても、その内容はXが担当していた業務遂行に関する問題であって、Yの組織維持に直接影響するものであるとか、刑事処罰の対象になるといった性質のものではなく、Yに具体的な損害が生じたとは認められない。いずれにしろ、労働者の勤労の功を抹消してしまうほどの著しい背信行為があったとは評価できない、と。
労働者が退職するに当たっては、通常、業務引継ぎが行われるが、本件では、それが様々な事情で行われなかった。しかし、それはこれまでの労働者の勤労の功を抹消してしまうほどの著しい背信行為とはいえず、賃金の後払い的性格を有して退職金についてはきっちり支払われるべきことを判示する裁判例といえる。
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