1205号 「社会福祉法人緑友会事件」
(東京地方裁判所 令和2年3月4日 判決)
出産後まだ1年を経過していない保育士に対する解雇の有効性が争われた事例
保育士の出産と解雇
解 説
〈事実の概要〉
本件は、Y(社会福祉法人緑友会、被告)に雇用されていた保育士X(原告)が、Yが行った平成30年5月9日付けの解雇(「本件解雇」)が、客観的合理的理由なく、社会通念上相当性もなく、権利濫用に当たり無効であり、また均等法9条4項に違反し無効であると主張して、Yに対して、労働契約上の地位確認、労働契約に基づく賃金の支払い等を求めて訴えていたものである。
Xは、平成24年5月、Yの経営するA保育園に最初パ−ト保育士として入職し、同年12月、常勤補助職員として、25年春、正規登用試験に合格して正規職員として採用された。XとYは、Xの妊娠が判明したことから平成29年3月末まで勤務し、同年4月1日以降産休に入ることを合意し、Xは同年5月10日に第1子を出産した。Xは、平成30年3月9日、Yの総務課職員と面談し、同年5月1日を復職日としたい旨を伝え、面談後に時短勤務を希望する書類を提出した。XとYの理事長は、平成30年3月23日に面談し、理事長はXに対してXを復職させることはできない旨伝えた。この際、Xが解雇理由証明書を交付することを求めたことからYはXに対し同月26日付けで解雇理由証明書を交付した。なお均等法9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)には、「妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りではない。」旨の規定がある(4項)。本件は、まさに出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇であったから、その有効性が問題となったものである。なお、Yの主張には、XがD保育士やE保育士とグル−プを構成し、本件保育園のB園長の指示、提案等に従わず、ことあるごとにB園長やC主任等の管理職に敵対し、園長等に対する批判的言動を繰り返し、B園長の度重なる注意、改善要求にもかかわらず両者の関係が悪化し、職場環境を著しく悪くし、Yの業務にも支障を及ぼしている等のことが述べられている。本件で争点になったのは、@XY間に退職の合意があったのか否か、A本件解雇の有効性、B不法行為に基づく損害賠償請求、である。
〈判決の要旨〉
裁判所は、まず@の、XY間に退職の合意があったのか否かについて、労働者が退職に合意する旨の意思表示は、労働者にとって生活の原資となる賃金の源である職を失うという重大な効果をもたらす重要な意思表示であるから、退職の意思を確定的に表明する意思表示があったと認められるか否かについては慎重に検討する必要があるとした上で、会話の流れで相づちを打っているに過ぎないものを承諾したと解することはできないとしてとして、XY間に退職の合意があったことを否定している。妥当な意思解釈であろう。ついで、Aの本件解雇の有効性については、XがB園長の保育方針や決定に対して質問や意見を述べたこと、異なるやり方を提案することはあったものの、これを解雇に相当するような問題行動と評価することは困難であるとし、本件解雇は客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認めることができず、権利濫用に当たり無効であるとしている。Xが主張している均等法9条4項違反については、その趣旨を踏まえると、使用者は、単に妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを主張立証するだけでは足りず、妊娠・出産等以外に客観的に合理的理由があることを主張立証する必要があるとし、本件ではその点が証明されているとはいえず、均等法9条4項に違反するとし、本件解雇はこの点でも無効としている。B不法行為に基づく損害賠償請求については、本件解雇は違法性の強い解雇であるとしてYの不法行為責任を肯定している(慰謝料30万円)。
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