1207号 労働判例 「野村不動産ア−バンネット事件」
(東京地方裁判所 令和2年2月27日 判決)
従前の雇用経緯によって複数の異なる給与体系が適用されていた点を改め、
安定的な賃金体系に再編するための就業規則変更の合理性
安定的な賃金体系に再編するための就業規則変更の合理性
解 説
〈事実の概要〉
本件は、人事制度の改定に伴い、営業成績給という成果主義的な就業規則を、それを廃止し、安定的な賃金体系に再編するための就業規則変更の合理性が問題とされた事例である。成果主義的な賃金制度を導入するための就業規則の変更事例はかなりの数あるが、本件は、逆に、成果主義的な賃金制度を改め、より安定的な賃金制度に再編するというケ−スである。
X(原告)は、不動産の売買の仲介等を行うY社(被告)との間で、期間の定めのない雇用契約を締結して就労していた者である。平成29年3月当時、「営業職A」の職種であったXは、基本給(25万7000円)、営業手当(固定残業手当)(7万円)、および営業成績給(手数料収入の5%に相当する額)が毎月支給されるとともに、賞与として年2回、営業成績給(半期の手数料収入の5%に相当する額)および査定賞与が支給されていた。
Y社は、平成29年4月に就業規則を変更し、新たな人事制度を導入した。これに伴って従前の職種区分は廃止され、総合職、業務職、アクチィブ職の3区分に再編された。人事評価は従前の能力評定から行動評定および業績評定に変更され、行動評定の結果が役割給および役割等級の昇格・降格等に、業績評定の結果が賞与に反映されることになった。新しい人事制度では、月例賃金として役割給(行動評定に基づいて決定される)および賞与(役割給の1・5ヵ月分相当の金額に、業績評定その他の評定に査定金額が加算)を支払うこととされ、営業成績給は廃止された。
本件は、Xが、Y社の新しい就業規則および給与規程は、従前の給与体系で支給されていた営業成績給を廃止する点で労働条件の不利益変更に当たり、かつ、当該変更は合理的なものとはいえないから労働契約の内容とはならない等と主張して、従前の給与体系に従って算出した平成29年6月支給分から平成30年6月までの営業成績給の合計額172万円余等を請求したものである。
〈判決の要旨〉
(1)本件就業規則の変更がXとの関係において不利益変更に当たるか否かについて、裁 判所は次のように述べる。旧人事制度において営業職Aにあった従業員に営業成績給が支給されていたことについて、他の従業員との関係で不平等である旨が指摘されていたことがあり、営業職Aにあった従業員には少なくとも月例賃金で支給されていた営業成績給が支給されなくなるのであるから、本件就業規則の変更により不利益が生じる可能性があるということができる。また、計算上、本件人事制度の導入により支給される賃金が1割以上減少したことが認められる。したがって、本件就業規則の変更は、Xとの関係において不利益変更に当たる。
問題は、その変更が労働契約法10条の要件に照らして認められるか否かであるが、@不利益の程度は、今後のXの昇進等により減少ないし消滅し得るものであり、A変更の必要性は、従前の雇用経緯によって複数の異なる給与体系が適用されていた点を改め、人事労務管理の観点から統一的な人事制度を導入する必要性があったとして、肯定している。B変更の内容も相当なものであるとし、C交渉の状況その他事情も、説明・周知手続き等も相当であったとしている。結論的には本件就業規則の変更による労働条件の変更は有効であったとして、Xの請求を棄却している。
上にあるように、従前の雇用経緯によって複数の異なる給与体系が適用されていた点を改め、人事労務管理の観点から統一的な人事制度を導入する必要性があったことを重視し、就業規則の変更の合理性を認める点で注目される。
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