859号 労働判例 「ブレックス・ブレッディ事件」
(大阪地裁 平成18年8月31日 判決)
業務委託契約に基づく店長の労働者性
解 説
〈事実の概要〉
今回取り上げるのは、いわゆるフランチャイズ契約に基づいて、フランチャイジー(チェーンストアの1つ)として、パンの製造・販売等を目的として新規に開店した店舗で店長として労務を提供していたX(原告)の労働者性が争われた事例である。各種菓子類の製造・販売等を行うブレックス社(被告Y1、フランチャイザー)は、ブッレディ社(被告Y2、平成16年8月31日に設立された有限会社)とフランチャイズ契約を締結した。本件は、その契約に基づい店舗を経営するY2で、その店舗の店長として採用され労務を提供していたXが、Y2およびY2の取締役であるY3およびY4に対して、自らを労基法上の労働者であったとして、最低賃金との差額、未払いの時間外・休日労働等の割増賃金等を、さらにY1に対して、フランチャイジーであるY2が経営する店舗の運営についてXの健康に被害をもたらす違法な指導を行ったとして不法行為に基づく損害賠償を請求したものである。
Xが上記の労務提供に至る経緯は次の通りである。Y3、Y4は、それぞれ別会社の経営に携わっており、パンの製造・販売に関する店舗の経営に携わった経験がなかったことからY1のE専務に、Y1から本件店舗の店長を派遣するように求めた。そのためY1はハローワークで、平成16年8月23日付けの求人票によりY2での店長候補者を募集した。Xはこの求人票を見て応募し、Y1の専務Eの就職面接を受け、その後、Y1の工場、店舗等で研修を受け、Y2の取締役であるY3、Y4と面談し、本件店舗での労務提供の条件について合意し、同年9月16日から本件店舗で労務を提供した。その際、Y3およびY4は、Xに対して、@Y2において本件店舗の出店、運営に要する費用を負担する、AY2はXに本件店舗の管理運営を任せ、Xとの間で業務委託契約を締結する、B報酬は、9月1日から15日までの研修期間につき日当5000円とし、9月16日からは月額25万円とし、売上による利益が出たらさらに加算する、C税務申告はXが個人事業者として行い、Y2では社会保険、雇用保険には加入しないとされた(なお1、2ヵ月程度社会保険・雇用保険に加入するとされ、10月分、11月分の給与からは健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税が控除されている)。9月21日、本件店舗が開業し、Xは店長として交替勤務のアルバイトとともに本件店舗で就労した。開店してからXが就労した同年11月8日まで休日はなく、営業時間は午前7時から午後8時までであった(Xは本件店舗で、休日をとらず、午前6時ころから午後10時すぎまで継続して業務を行っていたとされている)。なお、開店後1週間、Y1のスーパーバイザーGが、Xおよびアルバイトに対する業務指導に当たった。Xは、Gによる業務指導が終わった後、自ら面接等をしてアルバイトの採用を決定し、その勤務時間、勤務シフトを決め、その都度Y3に報告していた(その給与・時給はY2が決定していた)。また、Xは、閉店後午後10時過ぎまでY2に対して営業日報を送付し、Y3に対してメールで売上報告を行っていた。
〈判決の要旨〉
裁判所は、@研修、業務指導については、Y1がフランチャイズ契約に基づいて、加盟店の運営に関する指導・援助として行ったもので、Y2が具体的にこれに関与していない、AY2がXに対してその業務遂行につき指揮命令を及ぼしていたとは認められない、BY2の被用者であるアルバイトの給与の決定をY2が行い、Xがそれに関与していないとしても、Y2がXに対して業務遂行につき指揮命令を及ぼしていたとは認められない、CY2において、Xの報酬額の算定にXの勤務時間を考慮する必要がなかったのであり、Xがアルバイトと同様にタイムカードに記載していたからといって、就労時間について具体的に指揮命令を及ぼしていたとは認められない、D営業状況の報告は、Y2がY1に対して支払うロイヤリティの算定のために必要なもので、その報告の事実をもってY2がXに対して業務遂行につき指揮命令を及ぼしていたとは認められない等として、Y2とXとの間に使用従属の関係があったとはいえないとして、Xが労基法上の労働者であることを否定している。また、Y1がXに対して、午前6時ころから午後10時過ぎまで、常に就労するように指示したとは認められない等として、Xの就労状況についてY1に違法行為があったとはいえないとしている。フランチャイズ店の業務委託契約の法的性質を判断したものとして実務的にも興味深いものである。
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