874号 労働判例 「ネスレ日本事件」
              (最高裁第2小法廷 平成18年10月6日)
企業秩序違反行為から長期間経過後に行われた懲戒解雇(諭旨退職処分)が無効とされた事例
企業秩序違反行為から長期間経過後に行われた懲戒解雇の効力
 〈事実の概要〉
 本件は、企業秩序違反行為から七年以上も経過した後に行われた懲戒解雇(諭旨退職処分)の効力が争われた事例である。上告人B(下記の支部組合の副書記長)は、平成5年6月9日、体調不良を理由に欠勤し、翌日、年次有給休暇に振り替えるように申請したが、上司であるT課長代理がこれを有給休暇と認めず賃金カットしたことから紛争が生じた。支部組合(第1組合)による職場での抗議行動が行われ、その過程で上告人A、Bおよび訴外Cら組合員によるT課長代理に対する平成5年10月25日、26日および平成6年2月10日の暴行事件が発生し、Tは、捻挫、挫傷等の傷害を負ったとして警察署および地検に告訴状を提出した。地検は、同11年12月28日、上告人らを不起訴処分とした。その頃からY社(被上告人)は、A、Bに対する処分の検討を始め、事件から7年以上経過した平成13年4月17日、「同月25日までに退職願を提出すれば自己都合退職として退職金を全額支給するが、提出しなければ同月26日付きで懲戒解雇する」旨の諭旨退職処分を通告した。なお、当時のY社の就業規則では、懲戒処分には、懲戒解雇、諭旨退職、昇給停止等7種類が規定されていたが、懲戒懲戒は即時解雇として退職金は支給されない扱いであった。また、「暴行、脅迫、監禁その他これに類する行為を行ったとき」が懲戒懲戒事由として規定されていた。
 A、Bが期限までに退職願を提出しなかったため、Y社は、この両名を同月26日付きで懲戒解雇した。本件は、A、Bの両名がこの懲戒解雇の効力を争ったものである。原審は、@A、Bの両名が就業規則の懲戒懲戒事由である「暴行、脅迫、監禁その他これに類する行為を行ったとき」に該当することは明白である、A本件各事件から諭旨退職処分がなされるまで相当な期間が経過しているが、Y社は捜査機関の捜査を待っていたもので、いたずらに懲戒処分をせずに放置していたわけではないから、これを解雇権の濫用または信義則違反ということはできない、またこれを不当労働行為に当たるとすることもできず、解雇は有効であるとしていた。A、Bが上告。
 〈判決の要旨〉
 最高裁は、「本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり、被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから、上記の捜査を待たずともY社においてAらに対する処分を決めることは十分可能であったものと考えられ、本件において上記のように長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。しかも、使用者が従業員の非違行為について捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合においてその捜査の結果が不起訴処分となったときには、使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられる」として、企業秩序違反行為から7年以上も経過した後に行われた懲戒解雇(諭旨退職処分)は、このように長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由がないことを理由に、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認できないとして権利濫用により無効と結論づけた。
 本件の場合、上司が有給を認めなかったという労働条件をめぐる紛争、それに関連する抗議活動としての組合活動に端を発しているものの、Aらの活動は、明らかに組合活動の範囲を超えた、職場で就業時間中に行われた管理職に対する明白な暴行であり、管理職に対する暴行がが問題になっているのであるから、就業規則に照らして直ちに適切な処分を行うべきであったということである。

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