932号 「松下プラズマディスプレイ事件」902号高裁判決に対する最高裁判決)
       (最高裁判所第2小法廷 平成21年12月18日 判決)
下請会社従業員と元請会社との間の黙示の労働契約が成立していないとされた事例

偽装請負と黙示の労働契約の成否
  解 説
 〈事実の概要〉
 Y社(上告人)は、PDPパネルの製造等を行っている会社であり、訴外P社(パスコ)と業務請負契約を締結していたが、X(被上告人)は、P社の従業員として、平成16年1月からY社の本件工場で就労していた。その勤務実態は、いわゆる偽装請負が疑われる状況にあった。
 XおよびXの加入している労働組合は、Y社に対して直接雇用を求めて数回の交渉を行うとともに、大阪労働局に対して本件工場における勤務実態につき是正申告を行った。これにより大阪労働局が調査・指導を行い、Yは、デバイス部門において訴外P社との請負契約を平成17年7月20日限りで解消し、派遣契約に切り替えることにした。その際、Xは、P社からの他部門への移動を断り、P社を退職した。同年8月19日、Xは、Yの提示した、従前と異なるリペア作業を業務内容とする、期間付きの(平成18年3月末を限度として更新ありとする)雇用契約書に、業務内容および契約期間について異議をとどめた上で、署名押印した。Yは、その後、平成17年12月28日、翌年1月31日をもって契約が終了する旨通知し、同日以降Xの就労を拒絶している。
 これに対して、Xが、Yとの間で、本件契約書作成以前から黙示の労働契約が成立している等として、地位確認等を求めていた(紙数の関係で、それ以外の論点は省略)。
 1審(大阪地判平成19・4・26労判941号5頁)は、XとYとの間に賃金支払いの関係がないことなどを理由に、X・Y間における黙示の労働契約の成立を否定したが、原審(大阪高判平成20・4・25労判960号5頁)は、黙示の労働契約の成否は、当該労務供給形態の具体的実態により、両者間に事実上の使用従属関係、労務供給関係、賃金支払いの関係があるかどうか、この関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるかどうかによって判断されるとした上で、下請会社P社の従業員であったXとY社との間の実態関係につき、P社とY社との間、およびXとP社との間の各契約がいずれも公序に違反して無効(民法90条)とされ、YがXを直接指揮、命令監督して作業せしめ、その採用、失職、就業条件の決定、賃金支払い等を実質的に行い、Xがこれに対応して労務提供をしていたから、X・Y間には黙示の労働契約の成立が認められるとした。これに対して、Yが上告していた。
 〈判決の要旨〉
 最高裁は、次のように判示してYの上告を認容した。すなわち、請負人(P社)と雇用契約を締結し、注文者(Y社)の工場に派遣されてていた労働者が、注文者から直接具体的な指揮監督を受けて作業に従事していたために、請負人と注文者との関係がいわゆる偽装請負に当たり、上記の派遣を労働者派遣法に違反する労働者派遣と解すべき場合において、@上記Xと請負人との間の雇用契約は有効に成立していたこと、A注文者が請負人による当該労働者の採用に関与していたとは認められないこと、B当該労働者が請負人から支給を受けていた給与等の額を注文者が事実上決定していたといえるような事情はうかがわれないこと、C請負人が配置を含む当該労働者の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったことなどの事情の下では、注文者と当該労働者との間に雇用契約関係が黙示的に成立していたとはいえない、と。
 労働者派遣法の改正により上記注文者と当該労働者との間に、一定の条件で「直接雇用みなし」が規定される可能性があるが、現行法の解釈としては、いわゆる偽装請負の場合であっても、注文者と当該労働者との間に黙示の労働契約の成立を認めることは難しいということであろう。

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