939号 「INAXメンテナンス事件」
       (東京高裁 平成21年9月16日 判決)(最高裁判決は966号
製品の修理等の業務委託契約を締結して業務に従事するカスタマーエンジニアが、
労組法上の労働者ではないとされた事例
個人委託契約締結者の労組法上の労働者性
  解 説
 〈事実の概要〉

 Y社(1審被告・控訴人)との間で業務委託契約を締結してY社製品の修理等の業務に従事するカスタマーエンジニア(CE)ら約50人が加入する労働組合およびその上部団体がY社に対して団体交渉を要求したところ拒否されたため、組合は団体交渉拒否の不当労働行為であるとして不当労働行為救済申立てを行なっていたが、これについて大阪府労委は不当労働行為を認定し団交応諾と謝罪文の掲示を命じ、また中労委もY社の再審査請求を棄却した。本件は、Y社がこの中労委の救済命令の取消を請求した事件に関わるものであるが、争点は、上記CEが労組法上の労働者と認められるかどうかであった。この点につき、原審(東京地判平成21・4・22労判982号17頁)は、労組法上の労働者は、労働組合運動の主体となる地位にあるものであり、単に雇用契約によって使用される者に限定されず、他人(使用者)との間において、法的な使用従属の関係に立って、その指揮監督の下に労務に服し、その提供する労働の対価としての報酬を受ける者をいうと解するのが相当であり、上記の労働者性の判断は、法的な使用従属関係を基礎づける諸要素(業務依頼に対する諾否の自由、時間的・場所的拘束の有無、業務遂行についての具体的指揮監督、報酬の業務対等性など)の有無・程度を総合考慮して判断するのが相当であるとした上で、CEは、業務の依頼に対し諾否の自由を有するような実態になかったこと、労働力の処分について時間的拘束と担当エリアの限度における場所的拘束とがあること、業務マニュアルで指定された方法で業務を遂行し報告する義務があったのだから、具体的指揮監督を及ぼしているといえること、CEの報酬は出来高制であるが労務に対する対価としての性格を強く有することなどを総合的に考慮すれば、「CEは、Y社の事業組織の中に組み込まれておりその労働力の処分につきY社から支配監督を受け、これに対して対価を受けていると評価することができる」から、労組法上の労働者に当たると認定した。これに対して、Y社が控訴していた。
 〈判決の要旨〉
 裁判所は、次のように判示する。労組法上の労働者は、使用者との賃金等を含む労働条件等の交渉を団体行動によって対等に行わせるのが適切な者、すなわち、他人(使用者)との間において、法的な使用従属の関係に立って、その指揮監督の下に労務に服し、その提供する労働の対価としての報酬を受ける者をいうと解するのが相当であり、上記の労働者性の判断は、法的な使用従属関係を基礎づける諸要素(業務依頼に対する諾否の自由、時間的・場所的拘束の有無、業務遂行についての具体的指揮監督、報酬の業務対等性など)の有無・程度を総合考慮して判断するのが相当である。そして、上記の法的な使用従属関係を基礎づける諸要素の存否の評価に当たっては、契約関係の一部にでもそのように評価できる面があるかどうかなどの局部的視点で判断するのは事柄の性質上適当ではなく、両者の関係を全体的に俯瞰して労組法が予定する使用従属関係が認められるかの観点に立って判断すべきであるが、本件につき上記の諸要素を考慮すると、CEの基本的性格はY社の業務委託者であり、いわゆる外注先とみるのが実態に合致して相当というべきであるから、CEはY社との関係において労組法上の労働者に当たるとはいえない、と。
 労組法上の労働者性の判断を、上記判旨のように労基法の労働者性の判断とほぼ同じ基準を使って行うことが最近の裁判例のひとつの傾向になっているが(ビクターサービスエンジニアリング事件・東京地判平成21・8・6労判986号5頁、新国立劇場財団事件・東京高判平成21・3・25労判981号13頁)、その当否が改めて問題となる注目すべき事例である。

*ビクターサービスエンジニアリング事件・中労委 平成20年2月20日 労判955号95頁

 会社は、個人代行店が労組法3条にいう労働者には該当しないと主張する。そこで本件における会社と個人代行店の実質的な関係につき、@個人代行店が企業活動に不可欠な労働力として恒常的に会社の組織に組み込まれているか、A個人代行店の契約内容が会社により一方的に決定されているか、B個人代行店が業務遂行の日時、場所、方法などにつき会社の指揮監督を受けているか、C個人代行店が業務の発注に対し諾否の自由を持たないか、D個人代行店の報酬が労務の対価といえるか、E個人代行店が会社に専属しているかなどの点から検討。
 @個人代行店は、会社の主要業務の一つである出張修理業務に恒常的に不可欠な労働力として会社の組織に組み込まれている、A個人代行店の契約内容が、事実上または契約上会社により一方的に決定されている、B個人代行店は、休日については自らの希望をある程度反映させることができるものの、標準的な受注可能件数の設定および業務担当エリアの設定・変更という形で会社から時間的場所的拘束を受けるとともに、また、会社から作業内容のみならずその遂行の態様に及ぶ具体的な指示を受けており、会社が業務遂行上の指揮監督を行っていると評価できること、、C個人代行店は、標準的な受注可能件数までの業務の発注に対し諾否の自由がないこと、D個人代行店の報酬がは出来高制とされているものの、労務提供への対価としての性格を有していること、E個人代行店は会社への専属性が高いことなどを総合的に勘案すると、個人代行店を会社との関係において、通常の商取引関係にある事業者にすぎないものとみることは相当ではなく、会社の指示の下に労務を提供し、その対価として報酬を受け取っている者として、労組法3条にいう労働者には該当し、労組法7条2号にいう「雇用する労働者」に当たる。

(参考)ビクターサービスエンジニアリング事件・東京地判 平成21年8月6日 労判986号5頁

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