966号 労働判例 「INAXメンテナンス事件」939号高裁判決に対する最高裁判決)
              (最高裁第3小法廷 平成23年4月12日 判決)
製品の修理等の業務委託契約を締結して業務に従事するカスタマーエンジニアが、
労組法上の労働者であるとされた事例

個人委託契約締結者の労組法上の労働者性

 解 説
〈事実の概要〉

 Y社(1審被告・控訴人)との間で業務委託契約を締結してY社製品の修理等の業務に従事するカスタマーエンジニア(CE)ら約50人が加入する労働組合およびその上部団体がY社に対して団体交渉を要求したところ拒否されたため、組合は団体交渉拒否の不当労働行為であるとして不当労働行為救済申立てを行なっていたが、これについて大阪府労委は不当労働行為を認定し団交応諾と謝罪文の掲示を命じ、また中労委もY社の再審査請求を棄却した。本件は、Y社がこの中労委の救済命令の取消を請求した事件に関わるものであるが、争点は、上記CEが労組法上の労働者と認められるかどうかであった。この点につき、1審(東京地判平成21・4・22労判982号17頁)は、労組法上の労働者は、労働組合運動の主体となる地位にあるものであり、単に雇用契約によって使用される者に限定されず、他人(使用者)との間において、法的な使用従属の関係に立って、その指揮監督の下に労務に服し、その提供する労働の対価としての報酬を受ける者をいうと解するのが相当であり、上記の労働者性の判断は、法的な使用従属関係を基礎づける諸要素(業務依頼に対する諾否の自由、時間的・場所的拘束の有無、業務遂行についての具体的指揮監督、報酬の業務対等性など)の有無・程度を総合考慮して判断するのが相当であるとした上で、CEは、業務の依頼に対し諾否の自由を有するような実態になかったこと、労働力の処分について時間的拘束と担当エリアの限度における場所的拘束とがあること、業務マニュアルで指定された方法で業務を遂行し報告する義務があったのだから、具体的指揮監督を及ぼしているといえること、CEの報酬は出来高制であるが労務に対する対価としての性格を強く有することなどを総合的に考慮すれば、「CEは、Y社の事業組織の中に組み込まれておりその労働力の処分につきY社から支配監督を受け、これに対して対価を受けていると評価することができる」から、労組法上の労働者に当たると認定した。Y社が控訴していたが、原審(東京高裁)は、労組法上の労働者は、使用者との賃金等を含む労働条件等の交渉を団体行動によって対等に行わせるのが適切な者、すなわち、他人(使用者)との間において、法的な使用従属の関係に立って、その指揮監督の下に労務に服し、その提供する労働の対価としての報酬を受ける者をいうと解するのが相当であり、上記の労働者性の判断は、法的な使用従属関係を基礎づける諸要素(業務依頼に対する諾否の自由、時間的・場所的拘束の有無、業務遂行についての具体的指揮監督、報酬の業務対等性など)の有無・程度を総合考慮して判断するのが相当であるが、本件におけるCEの基本的性格はY社の業務委託者であり、いわゆる外注先とみるのが実態に合致して相当というべきであるから、CEはY社との関係において労組法上の労働者に当たるとはいえない、と。本件は、その上告審である。
 〈判決の要旨〉
 最高裁は、会社と個人業務委託契約を締結しているカスタマーエンジニア(CE)は、事業遂行に不可欠な労働力としてその恒常的な確保のために会社の組織に組み入れられていたこと、業務委託契約の内容は会社が一方的に決定していたこと、CEの報酬は労務の対価としての性質を有するといえること、会社から修理補修等の以来を受けた場合にこれに応ずべき関係にあったこと、会社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務の提供を行っており、業務について場所的・時間的拘束を受けていたことなどからすれば、労組法上の労働者と認められると判断した。事例判断ではあるが、この種の問題について労組法上の労働者性を否定する判決が相次いでいたのに対して、最高裁としての立場を明確にした本判決の意義は大きいと思われる。

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