981号 「東芝事件」
(東京高裁 平成23年2月23日 判決)
うつ病による休職期間満了により解雇された労働者が裁判により業務上と認定され、
解雇無効と認めら賃金請求等が認められた事例
休職期間満了による解雇と業務上認定
解 説
〈事実の概要〉
被告Y社は、電気機械器具製造販売等を業とする会社であり、X(女性)は大学を卒業後Y社に入社した。Y社では、平成12年11月頃、深谷工場で液晶ディスプレ製造ラインの立上げのプロジェクトが発足し、Xはそのリーダーとなったが、その過程で身体の不調を来たし、同年12月にH神経科クリニックを受診した。平成13年1月以降も当該プロジェクトには様々なトラブルが発生し、Xはその対応に追われたが、会議中に激しい頭痛に襲われたりしたため同年6月1日から12日間連続で欠勤した。その後、結局、H神経科クリニックの医師の勧めで同年9月から療養生活に入ることに決め、年休をとって休んだ後、10月9日に主治医の診断書を提出して欠勤を開始した。平成14年5月、主治医による「職場復帰可能」との診断結果を提出し、同月13日に職場に復帰したが、翌日14日には欠勤し、翌15日から再び長期欠勤することになった。Y社の就業規則では、Xのような10年以上20年未満の者については最長20か月の病気休職が認められていたが、期間満了をもって解雇されることになっていた。Xの場合、平成16年9月10日その期限であった。その後、Y社の職場復帰プログラムの説明も行われたが、前記休職期間満了までに職場復帰することは不可能である旨のX自身の回答もあり、結局、平成16年9月9日にXの解雇が行われた。
本件は、Xが、Y社に対して、うつ病の罹患は業務上の事由によるものであり、療養のために休業する期間であったにもかかわらず、Y社の就業規則に基づき解雇されたのは労基法19条に違反するものとして無効であり、Y社との間に雇用契約上の地位を有することの確認と解雇後の平成16年10月から判決確定日までの賃金支払い、Y社の安全配慮義務違反に基づく損害賠償を含め、慰謝料等2224万円余の請求を求めた事件の控訴審である。なお、Xの休業補償給付等の請求は、監督署レベルでは認められなかったが、不支給処分の取消訴訟で、平成21年5月18日、東京地裁は、当該処分を取り消す旨の判決がなされ、確定している。
〈判決の要旨〉
裁判所は、Xのうつ病罹患は業務上の事由によるものであると結論づけたが、その際、次のような判断枠組みを採用している。すなわち、「個別の労働者が与えられた業務により鬱病を発病した場合において業務起因性を認めるためには、その与えられた業務が当該労働者に欝病を発病させる程度に過重な業務であるとともに、当該労働者と同様な職種において通常業務を支障なく遂行することが許容できる程度の心身の健康状態を有する平均的労働者の範囲内にある労働者のうち、最も脆弱な性格傾向のある者についても鬱病を発病させる程度に過重な業務であると認められれば足りるのであって、一般の平均的労働者ないし上記平均的労働者の範囲内にある労働者の多くについて鬱病を発症させる程度までに過重な業務であることが認められる必要は必ずしもない」と述べたうえで、Xの本件疾病を業務上の事由によるものと認め、したがってY社によるXの解雇を労基法19条に違反するものとして無効としている。
さらに判旨は、解雇期間中のXの賃金請求権について、次のように注目すべき判断をしている。すなわち、Xは、業務上の疾病であるうつ病により労務の提供が社会通念上不能になっているといえるから、Xは、民法536条2項本文により、XはY社に対し本件解雇後も賃金請求権を失わない。そして労基法、労災保険法の制度趣旨・目的に照らすと、使用者に帰責事由がある業務上の疾病等による労務提供不能の場合に、労基法、労災保険法によって民法536条2項の適用を排除し、雇用契約の継続を否定し、同条項の適用が排除されるとの解釈をとるべき理由はない。労働者が受領済みの休業補償給付金は、法律上の原因を欠く不当利得であったことが確定するにすぎない、と。しかし、この解釈によれば、使用者が労災保険に強制加入させられている意義が没却されることになろう。
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