996号 労働判例 「国・船橋労基署長(マルカキカイ)事件」
(東京地裁 平成23年5月19日 判決)
会社の執行役員が労災保険法上の労働者と認められた事例
会社執行役員の労災保険法上の労働者性
解 説
〈事実の概要〉
亡Kは、各種産業機械や建設機械の卸販売等を業とする訴外Zにおいて、一貫して建設機械部門の業務に従事してきていた。平成10年KはZの理事に就任し、このとき退職金の支払いを受けた。Kは、平成12年に取締役に、翌年の13年には執行役員に就任し、建設機械本部本部長および東京建設機械部部長の役職を兼務した。平成17年2月、Kは、出張中に突然目の痛みを訴え、病院に救急車で搬送されたが、同日、病院において橋出血により死亡した(当時62歳)。
本件は、X(Kの妻、原告)が、上記死亡が業務(過重業務)に起因するものであるとして労災保険法に基づく遺族補償給付等の請求を行ったところ、Y(被告)が、Kは労災保険法上の労働者ではないとしてそれが認められなかったため、その不支給処分の取消を求めたものである。
〈判決の要旨〉
裁判所は、Xの請求を認容して次のように判示している。労災保険法12条の8第2項が、同法の業務災害に関する保険給付について、労基法に規定する災害補償の事由が生じた場合にこれを行う旨規定していること、また、労災保険法が労基法第8章の「災害補償」に定める使用者の労働者に対する補償義務を補てんする制度として制定されたものであることにかんがみれば、労災保険法上の労働者は労基法上の労働者と同一のものであると解するのが相当である。
労災保険法上の労働者とは、@使用者の指揮監督の下において労務を提供し、A使用者から労務の対償としての報酬が支払われる者をいうと解すべきであるが、これに該当するかどうかは、実態に即して実質的に判断するのが相当である。
そして、Kについて、@理事就任の際に、ZがKとどのような内容および法形式の契約をしたかを明らかにする証拠はなく、また、理事としての独自の業務ないし権限を付与したことを明らかにする証拠もない。取締役、執行役員に就任した以降についても、一般従業員のときの業務実態と同じであったと解される、K自身、一貫して建設機械部門における一般従業員の管理職が行う営業・販売の業務に従事してきたのであり、その業務実態に質的な変化はなかった、A一般従業員であったときとは異なる特別の授権等を受けておらず、一定の取引については本社の決済を受ける必要があり、本社から具体的な質問や指示を受けていたことからすると、Kが行っていた建設機械部門における営業・販売の業務についても、一般従業員として東京建設機械部部長等に就いていたときと同様に、Zからのの指揮監督を受けていたと解するのが相当である、BZの執行役員は、その制度上の観点からは、事業主体の機関として法律上定められた業務執行権を有する者ということはできないし、また、Kが執行役員として経営会議に出席し、また経営計画委員会の委員として活動していたからといって、経営担当者に当たるということもできない、CKの報酬については、取締役とは異なる報酬体系および経理処理がとられていたこと、社会保険料の控除や源泉徴収がおこなわれていたこと、経理処理上はZの従業員に対する賃金支給として処理されていたこと等の事情に加え、KがZの指揮監督の下で建設機械部門における営業・販売の業務を行っていたといえることも併せ考えると、その報酬は、労務に対する対償に当たるものと評価するのが相当であり、以上によれば、Kは、執行役員という地位にあったものの、その業務実態は、Zの指揮監督の下にその業務を遂行し、その対価として報酬を受けていたということができ、労災保険法上の労働者に該当する。
Kの業務実態が、一般従業員であった頃から変化がなかったことが重視されたものであろう。
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